南の島の星の夜
えーっと、実際に行ってからだいぶ経ってしまいましたが。
小笠原3日目夜。
今回小笠原に行くことになった最大の目的、星空鑑賞を実行する夜です。
「星なんて、いつでも勝手に見りゃいいじゃない」といわれそうですが、小笠原に来てからこの日まで、雲のない夜空を見られることがなかったのです。最後の夜となるこの日、やっと雲のない夜空が実現したというわけです。
申し込んでいた「星空ツアー」のお迎えは、19:40に来る予定。が、昼間のツアーが予定より延びて、時間が1時間しかない状況に。その晩のディナーは、天皇陛下ご夫妻小笠原行幸時のメニューということで、ある意味とっておきのクライマックスディナーだったのかもしれませんが、大急ぎで片付ける羽目に。
19:30前に食べ終わったので、ホテルの前の道に出て、自主的に星空の予習。雲がかかったり晴れたりを繰り返していた空模様でしたが、この時間には見事に雲ひとつない快晴になっていました。
やがて、1台のバンがホテルの前に到着。
ツアー料金を払って車に乗ると、それは天井に星空が蛍光塗料で描かれた特別内装の車でした。
「今日のツアーは、○○さん(僕の苗字)おひとりです」
ラッキー!同じ料金を払うなら、個人ガイドの方がお得。質問するのも望遠鏡見るのも、全部ひとりで独占です。(主催者側にとっては、あまり嬉しくないでしょうけど…)
「○○さん(僕の苗字)は、なにかあだ名はありますか?」
「ああ…。いよちゃんって呼ばれてます」
「僕は『よっしー』って呼ばれてます。じゃあ今日は、『いよちゃん』『よっしー』で」
こう名乗ったよっしーさんは、スリムでさわやかな感じの男性。
そんなふうにして、この星空ツアーが始まりました。
僕らの乗ったバンは、南の方へ。なんだかよくわからない山の中のような道を走ります。
道すがら、僕の仕事の話など。
「ウェブサイトを作る仕事をしてます」
という話をしたところ、よっしーさんはそのことに興味を持たれたようでした。
「ホームページ作っても、なかなか見てもらえないのが問題で…どういうふうにしたらいいか、アドバイスあります?」
「ええと…まあ、たとえば…」
そんな話をしているうちに、目的地に到着。
着いた場所は、暗くてよくわかりませんでしたが、森の中のすこし開けたようなところで、前方には海がありました。前日スクーターでいろんなところを回りましたが、どうやら来たことのない場所のようでした。
「あっちは海ですので、あんまりあっちに行かないでください」
とよっしーさん。
「ここは、島のどのへんなんですか?」
「特に名前のある場所ではないんですが…南西の方です」
よっしーさんはまず、車からゴザを取り出し、地面に敷きました。
「じゃあ準備をしますんで、その間ここに横になって、空を見ててください。横になって上を見るのが、いちばん視界を広く取れますから。流れ星でも探していてください」
目の前には、視界いっぱいの星。でも、生まれてこのかた流れ星なんて見たこともなかった僕は、どのへんを凝視していればいいのか、どのくらい一瞬で消えてしまうのかもわからず、半分途方に暮れながらひたすら星空を眺めておりました。
やがて「準備ができました」との声に起き上がると、「いや、まだ横になっていてください」とのこと。まずは寝たまま、肉眼での星空鑑賞スタート。
「いよちゃんは、星にはくわしいですか?」
「いや、特には…」
星を見るために小笠原に来たというわりには、僕は星についてはまったくの無知。
「なにか見たい星はありますか?」
「いや…お任せコースでおねがいします」
まずは、正面に上りつつあったオリオン座。学生の頃は、川崎市の実家の空でもオリオン座くらいは見つけられたものでしたが(いまではすっかり見えなくなりましたが)、川崎市で見るオリオン座とは違い、三つ星と四隅の星以外にも、たくさんのちいさな星がちらばっていました。こんなに星の多いオリオン座ははじめて。
「オリオン座の左、なにかこう、もやもやっとしているのがわかりますか?あれはなんだかわかりますか?」
「天の川?」
「そうです。天の川。天の川はふつう、夏に見えるものなんです。夏なら、もっとはっきりと見えます。冬に天の川が見えることはあまりないんです。でも、小笠原の空気はとても澄んでいるので、冬でも天の川が肉眼で見えるんです」
ふむふむ。
続いて、おおいぬ座のシリウス、こいぬ座のプロキオン、オリオン座のベテルギウスを結んだ「冬の大三角形」。あ、そういえば昔習ったかも。
「こんどは、この星を見てください」
よっしーさんがレーザーで指し示したのは、正面の海の上、低い位置にある明るい星。
「この星は『カノープス』といいます。この星は、シリウスに次いで、全天で2番目に明るい星です。でもこの星、本土からは見えません。南の方に来ないと、水平線に隠れて見えなくなってしまうんです。いよちゃんが本土に帰って、天文マニアのお友達に『カノープスを見てきた』といったら、よだれを流してうらやましがるような、そんな星です」
ほう。なんか、小笠原で星を見たありがたみが、数段レベルアップした気がします!
「海の上に白く道ができているのがわかりますか?あれは、カノープスロードといいます。カノープスの光が海に反射して道ができるんです」
つづいて、右の方にあったカシオペア座。さらにつづいて、すばる(プレアデス星団)。
「すばるは、実はひとつの星ではなく、いくつかの星が集まったものです。いよちゃん、いくつの星に見えますか?」
「3つくらいにみえます」
「現代人の目だと、それくらいしかみえませんよね。昔の人はもっと目がよかったようで、6つ、ないしは7つ見えたといわれています。世界の各地域によって、6つというところと7つというところがあります」
「今度は、北の空を見てください」
南に向いて寝ているので、来たというと頭上の方角。頭をのけぞらせて、逆さに北の空を見ました。
逆さに見る北の空は、なんだか距離感がなくて、プラネタリウムの天井を見ているような錯覚を覚えました。
「ここにある明るい星、これが、常に真北にある星、北極星です」
ああ、北極星。昔見たことがあったような。あれは、子供のころにプラネタリウムで見たんだったかな…。
そんなふうにして、横になりながらの肉眼天体観測終了。
続いて、「たびんちゅ」自慢の「バズーカ反射望遠鏡」による観測。
まずは、天の川の中。
「天の川が星の集まりだということは知識としては知っていても、実際にその中を見た人というのはあまりいませんよ」
おそるおそる覗くと、そこには明るい星の群れが。なんというか、はっきり見えすぎてこわいです。。淡くぼんやりとしているぐらいの方がいいような気もします。
続いて、星の一生を順番に。まず、星の赤ちゃん。
「明るい星のまわりに、もやがかかったようになっているのがわかりますか?あれが、星ができる元になるガスです。あそこからたくさんの星ができます。あのガスは、古い星が爆発してできた残骸です。いくつもの星の爆発した残骸が長い時間をかけて集まり、ああいう状態になります」
続いて子供の星。見せてくれたのは、すばる(プレアデス星団)。
「すばるはまだ子供の星たちの集まりですが、実はとても短命に終わるだろうといわれています。どうしてそんなことがわかるかといいますと、星の光り方を見るとわかるんです。すばるの星たちは、非常に高温で激しく燃焼しています。このまま燃焼し続けると、そう長くは持たないだろうということが予想できるんですね。弱く長く生きるか、激しく短く生きるか。これは人の一生にも通じるものがあるかもしれませんね」
とよっしーさん。
「日本人に『好きな星は?』とアンケートをとると、かならずすばるが一位になるんです。理由はわかりませんが、ひょっとすると、はかないものに心惹かれる日本人の民族性が関係しているんじゃないかと思うんです」
いや、すばるの人気が高いのは、谷村新司のおかげでは…とは、大人なのでいいません。
続いて老人の星。先ほども見た、オリオン座のベテルギウス。
「ベテルギウスはもう、いつ死んでもおかしくないといわれています。今こうして見ている瞬間に死んでしまうことだってありえるんです」
最後に、星の死骸。
「あのもやもやしたのが、星が超新星爆発を起こしてできたガスです。最初に見た星の赤ちゃんにも、同じようなガスがあったでしょう?どこまでが星の死骸で、どこからが星の赤ちゃんか、明確な境目はないんです。そうやって考えると、輪廻転生っていうのが実感できますよね。人の生にも、輪廻転生があるんじゃないかって思えてきますよね」
そんなふうにして、望遠鏡による天体観測終了。
続いて、記念撮影。
「まずは、望遠鏡で星を見るいよちゃんということで。いよちゃん、なにか見たい星はありますか?」
迷わず答えたのは「カノープス」。小笠原ならではの星。
望遠鏡の延長線上にあるひときわ明るい星。これがカノープス。
続いて、ふつうに星を見るの図。
最後に、「たびんちゅ」のバンの前で記念撮影。これで撮影終了。
「じゃあ、またゴザの上に横になって、星を見ていてください」
ということで、再び横に。
今度は、ぼーっと見ていると、視界の中央を、立て続けにふたつ流れ星が。はっきり、ゆっくりと。子供のころプラネタリウムで見たニセモノの流れ星のようでした。
そうこうしていると、「ボロロン」とい音が。たびんちゅ名物のウクレレ演奏です。
「これは『星の唄』という曲です。星を見ているときにインスピレーションを受けて作った曲です」
そんなウクレレ演奏を聴きながら、星空鑑賞の最後の時間を堪能。
ポロロン。ポロロン。
波の音。眼前には満天の星。
ああ、これがこの旅のクライマックスだなあ…そんなことを考えながら、演奏がいつまでも終わらないことを願っていました。
車でホテルまで送っていただいた際、よっしーさんはしきりに「ホームページに人を集める方法」を知りたがっておられたので、車がホテルの前に着いた後も、しばしホームページ談義。
たびんちゅホームページの改善案をメールでお送りする約束をして、お別れをしました。
ホームページ改善については、それから何通かメールをやり取りさせていただいております。(最近ちょっと送れてませんが…)
さて、ホテルでシャワーを浴び、すぐに就寝したわけですが、朝4時頃、自然に目が覚めました。
外を見ると、まだ真っ暗。ベランダに出てみると、空は相変わらずの快晴です。
昨夜の感動が忘れられず、これが最後のチャンス!と、防寒装備をし、双眼鏡を手に、ホテルの前にある扇浦という砂浜に出ました。
砂浜にはまったく明かりになるものがなく、足下を探りながらおそるおそるの散歩。でも道には街灯が煌煌と灯っていて、星を見るには若干不向き。
それでも、空には東京とは比べ物にならない満天の星が、まだありました。
よっしーさんに教わったように、砂浜にごろんと横になり、再び星空鑑賞。
あれから7時間近くたった星空はすっかり回転し、だいぶ様変わりしていましたが、よっしーさんに教わった通りに北斗七星と北極星をみつけることができました。
30分くらいそうしていたでしょうか。さすがに寒くなって、星空と最後のお別れをしました。
このようにして、この旅最大の目的である「星を見る」というミッションを、無事達成したわけです。
これで満足。思い残すことなし。
星はいいね。
このエントリーのトラックバックURL:
http://14ch.jp/mt/mt-tb.cgi/596
前の記事:« 絶海の孤島・ケータ島ツアー
次の記事:» 方言美少女ハァハァ『天然コケッコー』
いいなぁ。いいなぁ。
星、ロマンですよね。大好き。
私は小さな頃、母の田舎(ドがつくほど田舎)で星空を見上げ、
14chさん同様
「星がいっぱいありすぎて、怖い、落ちてきちゃうよぉ」と言ったそうです。
そして、日本人に「すばる」が
人気な理由も、14chさんに1票(笑)
でも、やっぱり、星っていいですよね。心が洗われる。
あの遠いかなたにある星の光も、
今見えているけれど、何万光年も向こうの星だとしたら、
恐竜がいた時代に光ったものかもしれないとか、
卑弥呼が居た時代に光った光かもしれないとか、
想いを馳せてみたり。
いいな。素敵な星空。
私も見に行きたいです。
投稿者: hucco | 2008年03月21日 20:29
そういやhuccoさん、星空を見るシチュエーションの歌が好きっていってましたよね。
満天の星空を見ていると怖くなるって感覚は、よくわかります。僕の場合、空が落ちてくるというよりは、自分が空の中に入ってしまったような感覚に襲われます。
その感覚を味わいたくて、星を見に行ったんです。
いいね、星。オーロラも見たいな。
投稿者: 14ch | 2008年03月22日 00:16