雪が解けたら何になる？

小学1年生とはいっても、それくらいはわかります。

「えーと、水…」

彼は僕の言葉を遮り、確信に満ちた声でこう言い切りました。

「春になる！」

雪が解けたら春になる。
パーッと心が明るくなるのを感じました。
林の地面を覆っていた雪が解け、それが小さな川になって流れ、緑が芽吹くイメージが、頭の中に広がりました。

「いい？春だからね！じゃあ！」

彼はそう言い残して去っていきました。

彼がなぜそこにいて、僕にそんな言葉を残し、去っていったのか…さっぱりわかりません。
ただ、幼い僕に、忘れられない記憶を残していったことは確かです。
ものごとを物質として捉えるのではなく、心で捉えることの大切さ…そんなものを、暗に僕に教えてくれていたのかもしれません。

ちなみに、その感動の余韻に浸ったまま帰宅した僕は、さっそく母にそのことを話しました。

「あのね、雪が解けると何になるか知ってる？春になるんだって！」
「あんた、知らない人に話しかけられたらすぐ逃げなさい。こわい人いっぱいいるんだから」

そのようにして、幼い感動がもろくも踏みにじられたことも忘れられません。